レビュー研究の種類②スコーピングレビュー

最近よく目にするようになったレビュー研究の手法にスコーピングレビューというものがあります。日本語で書かれた論文でも「スコーピングレビュー」と書かれているものがほとんどですので、もはや和訳されずスコーピングレビューで定着するかもしれません(もはや定着済?)。

討論

システマティックレビューか、スコーピングレビューか? システマティックレビューとスコーピングレビューのどちらを選択するかについて著者のためのガイダンス

Systematic review or scoping review? Guidance for authors when choosing between a systematic or scoping review approach

Munn et al. BMC Medical Research Methodology (2018)18:143
https://doi.org/10.1186/s12874-018-0611-x

特徴としては、レビュークエスチョンの観点から、 スコーピングレビューは従来のシステマティックレビューよりも「範囲」が広く、それに応じて含める基準もより広範囲になります。さらに、スコーピングレビューはシステマティックレビューとはその目的が異なります。

最も考慮すべき重要な点は、著者がレビューの結果を 臨床的に意味のある疑問解決のため、あるいは診療に情報を提供するためのエビデンスとして利用したいかどうかです。著者がある治療や診療の実施可能性、適切性、重要性、有効性について答えを出したいのなら、システマティックレビューが最も有効なアプローチとなります( Pearson A 2004 , 2005 )。

しかし、必ずしもそのような正確な知見を得たいわけではなく、論文や研究における特定の特徴/概念の検証、およびこれらの特徴/概念のマッピング、報告または議論の内容に関心がある場合もあるかもしれません。このような場合には、スコーピングレビューがより良い選択となり得ます。

それはスコーピングレビューが、レビュークエスチョンに対する批判的に評価され統合された結果や答えを出すことを目的としておらず、むしろ エビデンスの概要やマップ(現状)を提供することを目的としているためです。このため、スコーピングレビューに含まれるエビデンスの 方法論的限界またはバイアスリスクの評価は、一般的に行われません(スコーピングレビューの目的に特定の要件がある場合を除く)。

スコーピングレビューを選択する際、研究目的が以下のポイントに該当するか確認することが重要です。

  1. ある分野における利用可能なエビデンスの種類を特定する
  2. 文献の中の重要な概念/定義を明確にする
  3. あるテーマや分野について、どのように研究が行われているかを調べる
  4. 概念に関連する主要な特性や要因を特定する
  5. システマティックレビューの前段階として実施する
  6. 知識のギャップを特定し、分析する

1. ある分野における利用可能なエビデンスの種類を特定する

Chambers (2011)は、政策立案者のニーズに合わせてシステマティックレビューからの知見を使用、適応、提示する現在のリソース(およびそれらに対する評価)を特定するために、スコーピングレビューを実施しています。 データベース、組織のウェブサイト、会議の抄録集など、あらかじめ設定された対象基準に基づいて包括的に検索した結果、3つのタイプ(概要、要約、政策概要)に分類した20のリソースと、公開および未公開の7つの評価結果を特定しました。

Challenらによるレビュー(2012) 計画のための出版物や文献の出所や質を特定し、利用可能なエビデンスの種類を特定するために実施されたものです。1603の関連する資料が検索され、ハザード分析、緩和、能力評価に関する資料の数は少なかったことが分かりました。つまり、この分野には大量のエビデンスらしきものが存在するものの、その一般化可能性と妥当性に関してはまだほとんど解明されておらず、この分野のユーザーにとって価値のあるエビデンスの種類と形式はまだ整理されていないと結論づけています。

2. 文献にある重要な概念/定義を明確にする

スコーピングレビューは、文献で使用されている定義を調査し、明確にするために行われることが多いです。Schainkらによるスコーピングレビューは、「患者の複雑性」という概念が既存の文献でどのように定義、分類、理解されているかを調査するために行われたものです(Schaink AK,2012)。

Hinesらは、ある概念(この場合は気管支肺異形成症)を定義するためにスコーピングレビューを実施した例を示していて、この病態の定義が文献によって大きく異なることを明らかにしています(Hines D et al, 2017)。

3. あるテーマについて、どのように研究が行われているかを調べる

特定のトピックに関する研究デザインとどのように研究が実施されているのかを調査するのに有効なツールでもあります。人工股関節(高架橋ポリエチレン製寛骨臼コンポーネント)の摩耗を評価する研究の方法論的デザインについて調査したスコーピングレビューがあります(Callary SA et al, 2015)。
この目的は、股関節置換術の摩耗の測定に関連するデータが研究で主にどのように報告されているか、また、その方法が研究間で比較可能かどうかを判断するために調査することでした。

スコーピングレビューの結果、摩耗を評価する方法は、研究者間で多くの異なるアプローチが採用されており、大きく異なっていることが明らかになっています。この結果から、この分野の今後の研究のために、測定と手法の標準化を強化することを推奨されることは言うまでもありません。

4. コンセプトに関連する重要な特性や要因を特定するため

スコーピングレビューは、特定の概念に関連する特徴や要因を特定し、検討するために実施することができます。Harfieldら(2015)は、先住民のプライマリー・ヘルスケアサービス提供モデルの特徴を明らかにするために、スコーピングレビューを実施した(Harfield SG et al, 2018)。
系統的な検索で集められた1000件を超える知見は、最終的に8つの重要因子(利用しやすい医療サービス、コミュニティへの参加、文化的に適切で熟練した人材、文化、継続的な質の向上、ケアへの柔軟なアプローチ、全人的医療、自己決定と権限委譲)に分類されました。

このスコーピングレビューの結果は、先住民のプライマリー・ヘルスケアサービスのベストプラクティス・モデルに反映させることに繋がっています。

5. システマティックレビューの前段階として実施する

システマティックレビューの前段階として実施されるスコーピングレビューにより、著者は幅広い分野のエビデンスの特徴を特定することができ、その後のレビューで適切な数の関連研究を確実に取り込むことができます。

また、このようなスコーピングレレビューによって、例えばある介入研究の結果や対象集団を特定することができ、あまり馴染みのないテーマでレビューを行う研究チームにとっては、非常に役立ちます。言い換えるとシステマティックレビューは、予備的ですがエビデンスに基づくスコーピングの段階で裏打ちされることが可能であるとも言えます。
*ただでさえ時間のかかるシステマティックレビューに対して、スコーピングレレビューは質の高いショートカットになるということです。

6. 知識ベースのギャップを特定し、分析するため

スコーピングレビューが、あるトピックに関する知識のすき間を、単に特定して分析するためだけに行われることはほとんどありません。なぜなら、調査や報告が行われていないものを調査し提示するためには、一般的に利用可能なものをすべて網羅的に調査する必要があるからです(かなり難しい)。

とはいうものの、スコーピングレビューは、新しい分野やトピックにおけるエビデンスを迅速にレビューするための有用なアプローチであることに変わりはないため、知識のギャップの特定と分析は、スコーピングレビューを実施するための一般的かつ貴重な指標(目的)となります。
最近、「職業的バランス」、つまり仕事と休息、睡眠、遊びのバランスというテーマについて、現在の研究をレビューし、知識のギャップを特定するために、スコーピングレビューが実施されています( Wagman P et al, 2015)。

関連する様々なデータベースを系統的に検索した後、含まれる研究を選択し、前もって決められた基準に沿って、この分野におけるエビデンスの現状について全体像を提供し、この分野における知識のギャップを特定するべく、説明とマッピングを行いました。その結果、著者らは、ヨーロッパ以外で実施された研究がほとんどないこと、人々の職業的バランスレベルに関する知識の欠如、職業的バランスの強化方法に関するエビデンスがほぼ存在しないこと、いくつかの研究の「ギャップ」を説明しています。このような結果は、将来の必要な研究テーマを提示すること役立つと思います。

考察

スコーピングレビューは、エビデンスを構築する武器として有用なツールで、最近、本当に増えています。
研究者は、レビューの目的が知識のギャップの特定、先行研究の扱っている範囲の特定、概念の明確化、研究デザインや方法の調査、またはシステマティックレビューへの情報提供である場合、システマティックレビューよりもスコーピングレビューの実施を優先することがあるでしょう。

システマティックレビューとは異なる目的で実施されますが、スコーピングレビューは、その結果が信頼できるものであることを保証するために、厳密かつ透明性の高い方法で実施されることが必要であることに変わりはありません。

スコーピングレビューとシステマティックレビューのどちらを実施すべきかについて明確な指針が得られることで、システマティックレビューを実施した方が良いにも関わらずスコーピングレビューを実施されることが減って、またその逆の場合も減ることが望まれます。

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