プライマリケアにおける認知症予測モデルの開発

本研究自体は、直接、「看護」に関係しているものはありません。しかし、危険因子(リスクファクター)に基づく認知症リスクの予測は、公衆衛生看護の現場の方々にとっても認知症リスク低減のための生活習慣の改善につなげやすいことや個人の認知症リスクに対する意識を向上させることにも期待できます。

また、このような認知症の予測ツールは、患者さんの将来の認知症リスクについて、情報提供する際にも役立つと考えられます。

原著論文

プライマリケアにおける認知症予測モデルの開発:久山町研究
Development of a dementia prediction model for primary care: The Hisayama Study
Takanori Honda et al, Alzheimers Dement (Amst).2021 Jul 28;13(1):e12221
https://doi.org/10.1002/dad2.12221

久山町研究は、九州の都市圏である福岡市に隣接する久山町で1961年に開始されたコホート研究です。本研究では1988年にベースライン調査が実施されたコホートのデータを使用しています。65歳以上の住民837人がスクリーニング検査を受け(参加率:65歳以上の住民の91.8%)、ベースライン時に認知症であった34名と共変量に関する情報が得られなかった8名を除外し、残りの795名(男性310名、女性485名)を最終的な対象者としています。

リスク予測モデルはCox比例ハザードモデルを用いて、変数除去の基準をP<0.10とした後方変数選択で構築されています。さらに開発したモデルをSullivanらの方法に従って簡便なリスクスコアに変換しました。

痩せ(痩身)もリスクファクター

結果は年齢含む9つの因子がスコアリングされています。

認知症の簡易点数化システム

補足:予測10年確率は、以下の式を用いて決定されています。

論文中の図を、ひとまず整理いたしまして作成したものが下図になります。

認知症リスクスコア(著者作成)

例えば加齢に伴い、これらの因子のいずれかをもっていて、合計スコアが7だとすると10年後29%の確率で認知症を発症してしまうという解釈ができます。
高血圧や糖尿病、脳卒中予防が認知症予防に効果的である可能性が高いとも言えます。
今回の研究で報告されたことは公衆衛生看護の現場においても意義深いのではないでしょうか。

今回の日本人によるモデルでは、痩せ(BMIが18以下)がリスクファクターになっていて、このあたりについては海外の報告とは異なる部分があるそうです。さらに海外では、脂質異常症がリスクファクターとなる報告もあります。
日本人と海外の方では体型や生活習慣(文化含む)に異なる部分もあるでしょうから、詳しい背景についてはこれまで、あるいは今後の報告も見ていきたいと思います。

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