看護師と患者の関係がケアの質および患者の意思決定に与える影響

医療処置が必要な患者にとって、自ら意思表示ができない場合があり、医療従事者だけではなくその家族との意思疎通も困難になるケースがあります。意思決定に際し、可能な限り患者の意思を推定できれば尊重する。できない場合は患者にとっての最善を探る必要があり、その支援の役割を看護職が担うことになります。

原著論文

看護師と患者の関係がケアの質および患者の意思決定に与える影響
Impact of Nurse-Patient Relationship on Quality of Care and Patient Autonomy in Decision-Making
Int J Environ Res Public Health. 2020 Jan 29;17(3):835.
DOI:10.3390/ijerph17030835.

看護師と患者の関係がもたらすもの

これまでの研究では看護師と患者の関係(看護師-患者関係)や両者の役割の間の行動やコミュニケーションスキルについての報告は限られています。ただセルフケア、服薬アドヒアランス、心理的介入、患者と看護師の満足度などについては、多くの報告があります。
また、この関係がケアの改善に及ぼす影響についてもよく行われているようです。実証的な研究に基づいたものもありますが、その多くが看護師の経験に言及しており、研究者の主観的な文体で語られています。

これまでの医療制度は、ケアの全人的側面と質の向上を目的とした戦略を展開してきたわけですが、管理する側(医療従事者)による実践モデルにおいて、意思決定の際の患者の真の自律性が確保されているとは言えません。

看護師-患者関係は、患者の自律性に影響を与える側面の1つであると言えます。
看護師と患者の良好な関係は、入院日数を短縮し、両者の質と満足度を向上させることが分かっています。さらに、そのような関係性は患者の意思決定への参加を促進します。しかし、その関係性自体、患者の従順な役割によって条件付けられることが多いようです。
一方で、看護師と患者の関係が悪いとケアの質が低下し、患者の自律性が損なわれます。ここでの悪い患者とは、多くの情報を要求し、時には専門家の推奨に反して自分自身で決定を下そうとする。そして専門家と良い関係を保てない患者と捉えられています 。

本研究の目的は、看護師-患者関係を規定する要因を分析し、臨床実践への影響、ケアの質への影響、患者の意思決定能力について探ることです。

看護師はプロセスの証人となるべき

研究デザインは質的研究です。2015~2016年の総合病院の内科・専門診療科の看護師への13回の詳細なインタビューと61,484件の看護記録を用いています。

記録とインタビューの両方から、看護師は治療の指示に従う従順で受動的な患者を好むことが確認されました(図1)。これは看護師が記録をする際、客観性が重視される中で、その情報となる患者の声は痛みの状況や主観的知覚にのみ言及されることが多いことで説明がつきます(看護師が尋ねたとおりに患者が答えてくれると記録しやすい)。
このことは看護師が、患者は専門家を完全に信頼し、委ねるべきと仮定しているインタビュー内容にも表れていました。したがってアローロ・アレリャーノが指摘するように、患者が入院病棟に入ると、(比喩的に)患者は専門家の所有物となり専門家によって支配されることになります。

看護師との関係性に応じた患者の意思決定の自律性

本研究の結果から、「良い患者」と見なされるためには、施設の規則や規範を前提として、病気を受け入れ否定を続けない、多くの情報を必要としない、注意を必要としないなどの特徴、看護師の仕事が評価されること、課せられたケアにおいて協力的で参加型の役割が観察されることが必要であることが確認されました。

結論として、健康や病気のプロセスに関する意思決定は、条件付けによってもたらされる関係性ではなく平等な力の配分により、専門家の助言を受けることによって、患者が自律的に獲得することができます。看護師-患者関係は、患者の価値観や習慣の変化を追いかけるのではなく、医療従事者を患者と家族の健康や病気のプロセスの経験の証人として位置づけることが必要だと言えます。

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